院長のコラム

エバーグリーン

そこにある必然性 

15-9-27
サービス付高齢者向け住宅(サ高住)及び介護事業所開設にあたり、建物は最重要課題であった。亡くなった両親や伯母から評価が得られるか、何よりも自分自身がそこで介護を受けたいと思えるかどうかを基本理念に据えた。
施設の代表である妻が何ヶ所かのサ高住の見学に行った。けれども、我々の考えるものとは程遠い現実がそこにあった。決してプライバシーが保たれているとは言えない狭い画一的な居室で十把一絡げの介護サービス。独特の臭いになぜか薄暗さを感じさせるオープンスペース。クリニックの建設同様、教科書・手本がないところから始めなければならなかった。

クリニックと門前薬局との調和、かつ我々の理念を具現化してくれる建築家は千葉学さん以外考えられなかった。自宅、クリニック、店舗の三案件を依頼し、得た知識と経験、重ねた信頼関係は揺るぎないものであった。依頼する際、我々は事細かく注文しない。お願いしたことは二つ。一つは、歪な地形を有効利用して欲しい、もう一つは、千葉さんが考える「終(つい)の棲家」であった。紆余曲折、試行錯誤を重ねて出来上がった建物は見事なものであった。鉄筋コンクリートの外観に黒を用いたモダンかつハードな佇まいだが、周囲との調和を考えれば安寧ある秩序を生みだしている。周囲の山々の緑とも不思議と融け合っている。
W型の変形地形を有効利用することによって各住居が異なる形になった。部屋其々に異なる表情を見せるので、入居者は部屋の選択に迷うことだろう。住む人の個性を活かすことのできる部屋作りになった。背面がW型になっていることはすなわち、互いを見守ることが出来ることをも意味していた。もちろん、事務所からも各住居を見ることが出来る。人の多い日中は比較的心配ないが、人の少ない夜間、セキュリティ上安心のできる部屋の配置が実現した。

黒塗りの一見強面の外観と異なり、内部には所々緑があしらわれている。建設の終盤、千葉さんの方から提案があった。「今回の建物の内部に緑を使いたい。」、ミニマリズムのイメージが強い千葉さんからの意外な提案であった。我々の施設から見える山の頂近くに岩屋観音がある。千葉さんは、きっと観音からインスピレーションを得たのだろう。我々が千葉さんからの提案を拒むことはまずない。内部には所々に緑が配され、特に、観音側には明暗様々なグリーンがふんだんにしつらえられた。圧巻は二階の広いダイニングである。岩屋観音をほぼ斜めに眺めることのできるオープンスペースは、岩屋観音と一体化している。どれだけの言葉を費やしても伝えきれられない感動がそこにある。
千葉さんの提案に我々も触発された。観音にちなんで介護事業所名を「カノン」、サ高住をサンスクリット語で観音菩薩の浄土を意味する「ポータラカ」と命名した。また、室内の調度品は緑に統一することにした。こうすることによって、我々の目指す方向性がさらに明確化した。「癒しと安らぎ」が企業行動指針となった。

父から譲り受けた資材置き場だった地の真ん中に立ってみる。右にクリニック、左にポータラカを据えて真ん中に岩屋観音を仰ぎ見る位置である。そこに佇むと、不思議な感覚をいつも覚える。宗教、出逢い、過去と現代、自然と人工、神と人間、四苦八苦に運命。哲学的な言葉が次々に浮かんでくる。岩屋の観音様に見守られた地が、僕にとっての約束の地だとようやく気付いた。そして、そこに千葉さんの建築物が建てられることは必然だったのである。
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