院長のコラム

ワガハイハメイイデアル

悟りの果て

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 ワガハイハメイイデアル。僕は確かに迷医である。
名医でないことは充分自覚している。なぜなら、ヒポクラテスの誓いを正々堂々と読めるか、と尋ねられれば自信はない。歳を経るほどその思いは強くなっていく。
医師は、宗教家のように振る舞うよう医学概論で教えられる。万人に分け隔てなく慈愛を持って接しているかと問われれば、ごめんなさい、と頭を下げるしかない。泰然自若とは程遠く短気で、非常緊急時には誰よりも狼狽する。冷静沈着とは縁遠く、怒りや不満がどうしても表情に表れる。そんな人間だが、身の程は知っているつもりである。

言い訳がましいが、医師という仕事はあくまで一つの職業区分で人格を表現するものではない。医療保険の不正請求をする者もいれば、法を犯す者もいる。自分の技量以上の手技を患者で試そうとする輩もいる。うまくいけばいいが、死に至らしめばある意味殺人である。この情報化社会、某巨大掲示板に過激な内容を書き込む不届き者もいる。医師という職業は医術の専門職に過ぎず、何も有難く偉いものではない。
これは医師に限ったものではなく、先生と呼ばれる職業、弁護士、教師、会計士、議員も同様でピンキリである。プライドの高い人間がこれらの職種につくのか、先生と呼ばれチヤホヤされるからプライドが高くなるのか、はたしてどちらなのだろう。異業種交流に努めているが、経営者や市井の人々から学ぶことのほうが多い。

過日、信じがたい出来事に遭遇した。作家の古畑雅規さんに会いに松本に行った帰り、とんぼ返りの旅行で疲れていたせいもあり新大阪からの特急はグリーン車を選択した。発車して1時間過ぎた頃、うとうとしていたら後ろのほうが何か騒がしい。どすの利いた声で車掌に何か問い詰めているようだ。何のトラブルがあったのか耳をそばだてて聞いていると、自動ドアの上にある次の駅を知らせる電光掲示板がチカチカして心休まらない、と怒鳴っているようだ。あまりにもくだらない内容にびっくりしたが、どんな人が喚いているのかちらりと後を見てさらに驚愕した。通夜でよく見る有名なお寺の住職ではないか。しかも、婚礼に参加した帰りと思しき正装で家族連れである。
僧侶と言えば、宗教を学び日々その教えを実践する職業である。それはすなわち、来る日も来る日も四苦八苦に対峙している人である。真の意味で人格者、人生の達観者、もっと言えば生き仏、と言っても過言ではなかろう。宗教家がハレの日に些細な事で怒鳴り散らしている姿を見て、落胆するとともに安堵した。「人間なんて所詮こんなものか。」と。

吾輩は迷医である。どうすれば名医にたどり着けるのだろうと考えたこともあるが、今回の出来事に遭遇して、そう思うこと自体がまだまだ小医に過ぎないと確信した。わきまえつつ、自分らしく、あるがままに、この三要素で持って生きていこうと心新たにした今年の霜月である。

 

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