院長のコラム

分不相応

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NSX、誰もが知るホンダのフラッグシップスーパースポーツカーである。この2月、十数年の時を経て二代目が発売された。車自体への思い入れはほとんどないが、初代が発売された頃のことは鮮明に憶えている。時代はバブル景気真っ只中、ソアラ、セルシオ、ユーノスコスモ、スカイラインGTR、日産シーマ、高級車がどんどん発売され飛ぶように売れていた時代である。中でもNSXは群を抜いて高価だった。当時、ホンダはF1で連戦連勝していた時期でもあり、若者受けする車を次々に発表し会社自体にも勢いがあった。そのホンダが満を持して開発したスポーツカーがNSXなのだ。当時、僕は医学部六年生、もちろん買うことなど出来ないので、株バブルを吹聴していた父に購入を勧めた。車に全く興味のなかった父に、にべもなく断られた。ホンダベルノから貰ったパンフレットを眺めながら、そこに書かれていたキャッチコピー「our dreams come true」の言葉が強く印象に残った。

あれから二十五年が経過した。レーシングスピリッツは何処へ、ホンダはいつの間にかミニバンが得意なメーカーになっていた。日本経済も、バブル後失われた二十年を経てようやく明るい兆しは見えつつある。だが、景気が良いとは決して言えない状況だ。当時世間知らずだった僕も、少しは分別のある大人になった。何もかも背景が異なる時代に、ホンダが再び世に問うたスポーツカーがNSXである。しかも、今度のNSXはMADE IN USAなのだ。そのせいもあるのか、今度のNSXは帰国子女然としている。古き良き時代を知る者にとって複雑な心境である。

最近、何だかご縁づいている。何と、NSXに試乗する機会を得た。発表・発売された車とは言え、超高価で生産台数の限られた車である。一般人が試乗する機会などないに等しい。土曜日の診察終了時間を少し早めて、家族とともに試乗会に向かった。ホテル内に設置された会場の受付前で突然、尿意をもよおした。「トイレは何処だろう?」しばらく辺りをキョロキョロ見回したが、それらしき表示がない。「仕方がない、トイレを我慢して先ずは受付を済まそう。」と受付スタッフに声をかけるや否や、「お客様すいません、お間違いじゃありませんか?こちらはNSX試乗の受付ですが。」・・・、思わず絶句、何をどうしたら良いのか頭の中が真っ白になった。声を発することもなく、ただ鞄を開いて中の招待状を探すのが精一杯だった。

全身黒ずくめにスカートを穿いていたせいなのか、白髪のロン毛が不審者に映ったのか、醸し出す雰囲気にオーラがなかったのか、子供も含めた家族連れが影響したのか、兎に角、NSXに試乗する人間に見られなかったことに間違いない。憤懣やるせない思い一杯で釈然としなかった。しかも、見目麗しい女性スタッフに決めつけられたのが腑に落ちなかった。けれども、試乗前後合わせて一時間半程度の滞在で理由がよく分かった。同時刻に試乗会に招待された方々を見ていて合点がいった。決して豊かとは言えない頭髪、積極的支援を要するメタボ体型、いかにも関西人といった服装、この三要件を満たす方が何と多かったことか。二代目NSXクラス相当を購入もしくは購入を思案している人々には、ある種のステレオタイプなイメージに合致する人が多い事実を理解することができた。当初憤慨していたが、帰る頃には自分の分不相応さに潔ささえ感じた。何とも不思議な体験だった。

 

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