院長のコラム

忘れかけていた言葉

介護事業所設立にあたり 
15-9-20-1
介護事業所を開設にあたり、どのような施設にするか熟考する中で、伯母の言葉が唐突に浮かんだ。伯母とは僕の母の兄のお嫁さんである。小学校の3年生か4年生だったか記憶が定かではない、夏休みに、札幌の伯父の家で長期間お世話になった。専業主婦だった伯母は、ワルガキだった我々兄弟を色々な所へ連れて行ってくれた。朝起きると、今日は何処へ行くのだろう、どんな美味しいものを食べさせてくれるのだろう、毎日がドキドキワクワク充実した日々を送らせてもらった。唯一無二の夏休みを体験させてくれた。広大な地、空の高さに青さ、乾いた空気、その時の印象がその後、北海道での研修へといざなった。

「雄(ゆう)ちゃん、介護はやってもやっても報われないわよ、どんどん悪くなっていくばかり。その点、医療は癌の末期でも一筋の光明があるからいいわよ。」
旭川での忙しい研修医生活の合間、訪れた伯母の家で何気なく発せられた言葉。医療に従事したばかりの僕には、実母を介護していた伯母の切実な言葉が当時ピンと来なかった。その意味は腑に落ちなかったが、明るく大陸的な大らかさを持った伯母の後ろ向きな発言が印象に残ったのだろう。平成三年頃の話である。当時、老々介護、介護による現役世代の損失等、急速な高齢化社会の弊害が社会問題になり始めた頃である。その後まもなく、介護保険法が平成九年に制定され、三年後の平成十二年四月から施行された。

介護保険が施行されてから十五年、高齢化社会に対応するべく社会基盤は整いつつあるが、介護産業は確立されたと言えるだろうか。特別養護老人ホームは年単位の待機状態である。医療資源の介護事業への転換も遅々として進まない。一方、デイサービスの供給過剰が指摘され、サービス事業者の不正請求も後を絶たない。
介護保険の趣旨の一つに、「多様な事業者がサービスを提供する。専門的サービス産業としての介護産業を確立させる。」とある。門戸の広い国の事業に、多種多様な事業者が参入している。個々に寄り添った地道で真摯なサービスを夜遅くまで提供する事業者がいる一方、「介護度の高い人を入居させて介護保険をめいいっぱい使えばいいのよ。」とうそぶく事業者までピンキリである。医師の観点から言えば玉石混交、種々雑多な印象が拭いきれない。医療と異なる独特の世界観が介護社会には存在する。

今夏、介護サービス事業所を開設した。幸か不幸か、僕には介護しなければならない両親はいない。僕に介護の厳しさを伝えてくれた伯母さんも、もうこの世にはいない。僕が設立した事業所を彼らはどう評価してくれるだろう。彼らを納得させるような施設にできるかどうか常に自問自答している。
また、伯母さんのように介護で疲弊した人を一人でも救うことが出来れば、笑顔と一筋の光明が見いだせるような介護サービスを提供できれば、価値観が共有できる事業所スタッフ達に常に言い聞かせている。

 

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