院長のコラム

昔取った杵柄(きねづか)

シビックタイプR

16-5-15-1

車は好きである。ネットでよく情報を集めるものの一つである。服や時計のように、車選びで人柄をうかがい知ることがある。服はユニクロ、時計は全く興味なし、お酒は一滴で十分という会社社長が、ポルシェ911の希少車で現れた時は度肝を抜かれた。平々凡々に見えた彼を見直すきっかけになった。

車に興味はあるけれども、運転はあまり好きでない。長距離を運転しなければならない日は出発時から憂鬱で、運転し始めたら何時に着くか以外眼中に無く、ひたすら車線変更しながら寄り道もせず目的地に向かう。途中で寄るドライブインは、トイレ休憩と眠気覚ましにコーヒーを買うためだけなので、地域の名産品を買ったこともなければ食べたこともない。したがって、車はオートマティック車じゃなければならない。運転免許を取って以降、マニュアル車に乗ったことはほぼない。荷物の搬送のため仕方がなく軽四輪を運転したことがある。坂道発進時に、何度心臓が破裂しそうになったことだろうか。

昨年末、シビックタイプRという車が七百五十台限定で発売される情報を得た。ホンダ車に興味がない自分でも、シビックタイプRがマニア垂涎の車であることくらいは知っていた。全国で七百五十台、各県辺りで換算すると十数台、人口比も考慮すると和歌山県に割り当てられる車は三台前後、その県下でも人口分布を考えれば和歌山市がほとんどである。紀南地方で購入権が当たることはまずないだろう、万が一当たったとしても直ぐに売れるだろう、運試しのつもりでネットに応募してみたところ、何と当たってしまった。

勤務医の時とは異なり、開業医になってからは、いかに効率的に車を乗り換えるかを考えるようになった。毎日の仕事場への往復、仕事に関連する場への円滑な移動、車は移動するための道具であり、かつ自分を守る安全なものでなければならない。車は家に次ぐ高価なものなので、経営者としての観点から資産とも考えるようになった。その価値を極力目減りさせることなく、興味ある車に乗り継いでいくことも重要である。三年がひとつの目安と考えていた。
年末に車検を迎えることになっていたので、物見遊山でとあるディーラーで見積もったところ、即刻手放すことが条件ではあったが想定外の下取り価格が提示された。車検まで半年程度あったが、妻の満面の笑みを見ながらその場で契約となった。

話が散漫になった。ここ数年、赤のレンジローバー(イヴォークからスポーツ)を乗り継いできた。周囲の評判は上々で、自分のイメージと言えば赤のSUVになっていた。ところが、レンジローバースポーツを手放した今、僕のメインカーはシビックタイプRになってしまった。乗れない車を置いておくのはもったいないので何社か買い取りを打診したが、予想を相当下回る価格だったため売却を断念した。SUVからハッチバック、赤から白、経営者から走り屋のイメージ、何よりもオートマティックからマニュアルへ、五十歳を手前に大きな変革を迫られる状況になった。シビックで訪れると、先ず「なっとうしたん(どうしたの)?」、次に内装を見ながら「マニュアル乗れるん?」、最後に「何かイメージちゃうな。」ほぼ言われる。
適応能力というか昔取った杵柄というか、案外とマニュアル車に乗れている。ようやくこの歳になって、車を操るという感覚を理解しつつある。人生を折り返してもまだまだ、学ぶこと、発見がある。人生は面白い、心底思う。
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