院長のコラム

模造品

天職 

過日、勤務医である先輩医師と食事をした。先輩と言っても医師年数が上というだけで、偶然居酒屋で出くわしたことが縁で食事をすることになった。ほぼ初対面であったが、内視鏡検査をするという共通点があった。宴もたけなわ、「(長嶋君は)好きなこと(内視鏡)をして開業出来てうらやましいよ。」、先輩がぽつりと感想を漏らした。聞いた当初は腑に落ちなかったが、じわりじわりその言葉が琴線に届いた。当クリニックは、かかりつけ患者さん二割程度、内視鏡検査を希望して来院される方がほとんどである。多い日には、胃と大腸で一日に二十件を超えることもある。面と向かって断言されるまでもなく、客観的に見れば内視鏡検査でもっている診療所である。しかし、当の本人はそのことを自覚していなかった。改めて自分のクリニックのことを再認識した次第である。

「よくそんなに(検査を)出来ますね。」、関係者からよく尋ねられる。確かに、空腹と肉体的疲労に襲われることがしばしばある。けれども、精神的には全く苦にならない。待っている方々の検査を一刻も早く終わらせて帰途につかせたい、の一心である。検査中も病変を見落とさないよう懸命に取り組んでいるつもりである。没頭できる内視鏡検査を生業にしている、これこそが天職なのだと感じる。
消化器内科医、特にその中でも内視鏡を選択したのは、父のDNAをそのまま譲り受けたからだろう。父は山形県出身である。東北人と言えばのんびりして辛抱強いイメージがある。しかし、父は比較的短気で何事においても決断が早かった。生前、「内視鏡は視て直ぐに診断できるから自分の性に合っている。」と語っていた。せっかちで気ぜわしい僕を知る人は、なるほどと思うに違いない。
父が医師になった頃は内視鏡の黎明期で、機器の普及はもちろんのこと内視鏡医もわずかだった。新しい分野にいち早く取り組んだ父の先見の明もさることながら、それを武器に開業し一財産を築いた父の鋭い経営者感覚には驚嘆する。

時代が経た現在、内視鏡機器は全国津々浦々に普及し、消化器内視鏡学会の会員数も三万三千人にのぼる。当初、診断が主体だった内視鏡も、粘膜に留まる癌なら治療を出来るまでになった。ライバルが多く競争の激しい世界で、どうやって生き延びていくか日々思案している。とともに不安も募る。
振り返ると、父が選択した道をたどるように僕は生きている。何も考えずに当たり前のように。先輩医師から羨ましいと評価された僕の生き方は、父が切り開いた道をただ歩んでいるに過ぎない。僕は、父の模造品と言えるかもしれない。一方、自分が同業者よりも少し優れていると感じるのは、内視鏡に夢中になれること、それに、自身が父のフェイクであることを認識していることである。多くの二世医師を見ていると良く分かる。現在ある環境が、まるで自分が切り開いたかのように勘違いしている輩が少なくない。今後もパチモンなりの人生を歩んでいこう、五十の手前で僕は心新たにしている。

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