院長のコラム

Blood Moon(赤い月)

思い出になりそうなアルバム 
16-4-1

「Blood Moon」、昨年七月二十二日に発売された佐野元春のアルバム名である。僕にとって佐野さんはただのアーチストではなく、人生という長距離走のペースメーカーだと感じている。挫けそうになった時、絶望の淵に追いやられた時、この世界でたったひとりぼっちを意識した時、彼が紡ぎだした曲に何度、励まされ感化され勇気づけられたことか。彼は、僕の人生の羅針盤でもある。道に迷った時、苦渋の決断を迫られた時、自身に自信を持てなくなった時、彼が描いた世界観に何度導かれたことだろうか。したがって、彼の最新作やコンサートについては何度もこのコラムで取り上げてきた。しかし、今回、最新作を手にするのに半年以上もかかってしまった。

ホームページで常々報告しているように、アルバムが発売された七月以降検査件数がおびただしい数になった。介護事業の設立も忙しさに輪をかけていた。ニュー・アルバムのことは気になっていたが、心身ともにゆとりがなかったのだろう、機を逸していた。昨年九月にはコンサート開催の報を知った。大阪・東京公演は今年の三月だった。「半年も先のことなので大丈夫。」、アルバム購入を先延ばす理由さえ見つけるようになっていた。
アルバムのことを忘れかけていた今年の一月、チケットぴあからコンサートの先行予約の案内がメールで届いた。受験生を二人抱えている親の身である。精神的緊張を一番強いられていた時期である。三月十三日の大阪公演は音楽の殿堂フェスティバルホールで開催される。しかも、奇しくもその日は佐野さんの誕生日でもあった。いつもなら即刻予約するところだが思案した。行くとしたら、我々夫婦と長男の三人である。浪人中の長男に桜が咲けばこれほど素晴らしい出来事はない。一方、再度浪人することになれば折角のコンサートが台無しになる。不安を抱えたまま取り敢えず購入することにした。チケットは購入したが、「Blood Moon」の購入までには至らなかった。

一月、二月と受験の結果が次々に届けられたが決して芳しいものではなかった。鬱憤がたまる日々を過ごすとともに、子供に多額のお金をかけてまで医師にする必要があるのか、親としての覚悟を求められていた。
それは不意に訪れた。コンサートのちょうど一週間前の日曜日のことである。講演会出席のため上京していた僕を空港へ妻が迎えに来た。開口一番、「◯◯(長男の名前)やったで!☓☓(第一志望校)受かったで」。狐につままれるとはまさにこのことである。事態が全く理解できない。「合格発表は明後日やろ?」「◯◯、自信がなかったから(発表日を)嘘ついていたんやって。」それでも半信半疑である。帰宅してネットを確認してようやく安堵した。とともに、「来週コンサート行くから早急に「Blood Moon」を購入して。」即座に長男に指示した。

コンサート前々日に届いた佐野さんの最新作「Blood Moon」は、論評できるほど聴けていない。車のCDに投げ込んだままなので、そもそも曲名が分からない。印象としては、疾走・大人のロック・我々の世代に向けたメッセージを感じた。いいアルバムに間違いない。「Blood Moon」は中身以上に、購入するまでの時間・経緯・思い出が一杯詰まったアルバムになった。
佐野元春という音楽家を発見し同時代を生きていることに改めて感謝したい。
16-4-1-2

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