院長のコラム

「きのう何食べた?」(3)


「きのう、何処で何食べた?」、外食する機会が多い僕に、自宅での夕食時、突如思い出したかのように妻が問いかけてくる。「バカにすんなよ!何処で食べたかくらい覚えているわ!」内心叫ぶ。ところが、何を食べたか、途中から記憶が失せているのだ。「お酒は楽しく飲もう!」が僕のモットーだ。初見の方も旧くからの友人も、酒席に臨めば平等と考えている。空腹にアルコールがいきなり入れば、またたく間に五臓六腑に染み渡る。みるみるうちに僕の舌がレッドゾーンに入り、歯に衣着せぬ喋りが始まる。すると、それに呼応するかのように皆が語りだす。こうなると収集がつかない。飲んでいるのか、食べているのか、会話を楽しんでいるのか、そんなことなんてどうでもよくなる。至福の時間を過ごせた、ただそれだけでいい。「残りの人生、楽しい思い出をたくさん刻んでおきたい。」、人生も半ばを過ぎて思うことだ。「きのう何食べた?」妻の答えに対して、ディランを気取って「風の中にある。」と答えたいところだが、しどろもどろに「いやー、〇〇ちゃんに飲まされすぎて、よう覚えてないわ。」、責任転嫁して情けない答えで誤魔化してしまう。そんな夫婦の日常を、ドラマ「きのう何食べた?」で垣間見ている。

「きのう何食べた?」は、近年稀に見る秀逸なドラマだと自身感じている。殺人、権力闘争、裁判、幼妻と遺産、大どんでん返し、ドラマでよく見られるパターンが何処にもない。単なる日常の恋愛ドラマなのだ。ただし味噌なのが、その恋愛ドラマが男性同士で仕立てていることである。さらにそこに、料理というスパイスを加えているのだ。クライマックスなんて何処にもない。台詞や仕草、表情に一喜一憂し、料理の場面で感心させられお腹を鳴らす。内容は相当濃くしつこいが、見終えた後はすっきりさっぱりなのだ。見たことがある方なら得心してもらえると思うが、何よりかにより内野聖陽の演技が特筆に値する。彼が演じるケンジを見ているだけで泣き笑いしている。「ひょっとして、内野さんって本物?」、そう思わせるくらい難しい役柄を軽々と演じているのだ。役者の凄みという言葉がある。僕がパッと浮かぶのは、顔芸王者・香川照之さんである。しかし、「きのう何食べた?」を見始めてから、役者の凄み新チャンピオンは内野聖陽さんに変わった。声が大きくなくてもいい、表情が豊かでなくてもいい、大げさな態度を取らなくてもいい。瞬きや視線、指使いで威圧を感じさせることができるのだ。役者という仕事の奥深さを知った。

「きのう何食べた?」は、様々なことを僕に教えてくれたような気がする。「ありがとう」、「美味しい」、「今日は暑いね(寒いね)」、「なにか手伝おうか」、「ああ今日はしんどかった」、日常生活の日常会話の中に細やかな幸せが散りばめられていることを知った。大切なものはどこか遠くにあるものではなく、身近にあることを教えられた。当たり前のことだが感謝の気持ちが大切だ。とはいえ、明日になれば内省的な自分は何処へ、「何で俺のことを分かってくれんのな!」と胸の内で叫ぶ僕がいる。これもある意味、日常なのだ。考え方一つで人生は変えられる、そんなことを教えてくれた傑作ドラマである。テレビ東京では最終回を迎えたようだが、テレビ和歌山ではもう少し楽しめる。

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