院長のコラム

小さな決意

同業者の開院祝いには観葉植物を送るようにしている。胡蝶蘭や大型のフラワーアレンジメントも、それこそ花があって気分が華やぐ。しかし、これらはいつか枯れてしまう。自分が開業した時、花屋を開店できるのではと思えるくらい開業祝いをいただいた。あまりに多すぎて、スタッフに譲ったり家に持ち帰った。クリニックに残った胡蝶蘭は花がどんどん落ちて、どんどんみすぼらしくなっていった。胡蝶蘭の育て方を知らない我々は、捨てる他に方法がなかった。残ったのは観葉植物だけである。余程のことがない限り枯れないし、開院時にいただいたものが未だにある。同じ時を歩んでいけるが故に、開店祝いは観葉植物と決めた。

観葉植物を送るようになった理由がもう一つある。高校の同級生の嫁ぎ先が園芸関係だったのだ。開業前の勤務医時代、病院内をうろついている彼女を見つけた。「何してるん?」と声をかけたところから親交を再開させた。高校の同窓会やちょっとした集まりで顔を合わせる機会が多くなった。このご縁があって以来、お祝いは彼女に全面的に任せた。通常の観葉植物に何かしらのアクセントを付けてくれるので、他とは異なり目立って区別がつきやすく、送られた方から何度も喜びの声が届けられた。その彼女が先日亡くなった、まさに青天の霹靂である。

お祝いの発注は携帯電話でしていた。時折電話の向こうの声が心なしか弱々しく、電話をしても電話がかからず数日後に返信が届くようなことがあった。代金の領収も一ヶ月以上開くことが多々あった。以前と比べると痩せてはいたが悪化することもなく、会った時はいつも元気そうにしていたため、「(僕の)妻同様、更年期かな?」、「旦那さんの仕事の手伝いが忙しいのかな?」程度に考えていた。ご主人の話によると、闘病生活は十年以上に及び入退院を繰り返していたそうである。その話を聞いて愕然とした。そんなこと露知らず、「また植木よろしく!」のほほんとお願いしていた。電話をかけた際、入院中だったかもしれない。ましてや点滴治療中だったかもしれない。そう考えると、自分の行為が恨めしくなった。それとともに、周囲に自身の病気のことを一切知らせていなかった彼女の気高さを感じずにはいられなかった。自分のような臆病なチキン野郎には不可能なように思えた。

子供たちに美しく化粧され安らかに眠る彼女の顔を見たら、「これも順番やな、自分にはいつ回ってくるんやろか。」「先に行って待っておいてよ、また向こうで。」、不謹慎かもしれないが我が内心の声を聞いた。運命に身を委ねることしか出来ない小さな自分を認めざるを得ない。けれども、運命に対する何かしらの抵抗をしなければ終わるに終われない、こんなことで簡単に引き下がれない、生き抜いてやろう、小さな決意も芽生えた。快活で朗らか、それでいて人の心の機微を知る繊細な彼女を偲ぶとともに、ここに彼女のご冥福を祈る。

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