院長のコラム

フェイク野郎

父は、僕が小学一年生の時に開業した。自宅兼診療所だったので、パブリックスペースである診療所が住宅の延長線上にあった。いい意味でアットホーム、悪く言えば公私の境界が曖昧な雑多な印象があった。四十年以上も前の話なので無理もないが、自分が開業する時の一つの参考になった。診療所なのに美術館のように凛としていて、それでいて別荘のように居心地がいい空間づくりを建築家の千葉学さんにお願いした。当時、雑誌「新建築」に掲載され、診療所建築に一石を投じることが出来たと自負している。十年たった今でも色褪せない輝きを放っている。診療室から内視鏡室に移動する際、ガラス窓から見える光景に四季を日々感じている。

開業して以降、父から譲り受けた広大な土地の有効利用方法をずっと考えていた。これから一層深刻化する我が国の高齢化、医療と介護を包括的に結びつけることが喫緊の課題である。しかし、医療と介護は密接な関係にあるにも関わらず、積極的に介護事業を手がける医療人は決して多くない。一体なぜだろう、常々疑問に思っていた。正直なところ、医療とは異なる業種が数多参入している介護に対して胡散臭さを感じていた。医師として不勉強な介護のことを学ぶため、自分が内視鏡医として一線を退かざるをえなくなった時のために、何より地域医療に更に貢献するため、介護事業所の設立とサービス付き高齢者向け住宅の建築を開業五年目に決意した。

これが僕の開業医としての生き様である。誰から教えてもらったわけでもなく、誰から指南されたわけでもない。様々な人、色々なものから影響を受けてきた。運命的な出会いも数多く合った。人生の潮時も大事だと感じている。したがって、誰かが僕の後に同じことをしたなら、トランプ大統領を見習ってきっとこう言うに違いない、「このフェイク野郎」「小心者のロケットマン」と。僕は、自分の子供達に自分のようになって欲しいとは思わない。むしろ反面教師として欲しいくらいである。ましてや、人の猿真似なんか言語道断である。自分の足で立って、自分の頭で考え歩んで欲しい。自分の運命を呪ったり、誰かに責任転嫁するようなネガティブな生き方だけは止めてもらいたい。現状や社会、体制を非難しても何も世界は変わらない。変えられないのなら、どうやって折り合いをつけていくか、人生はこの問題の連続である。万人に評価されることは不可能だが、家族に後ろめたくやましい生き方だけは絶対にしまい、それが僕のささやかな信念である。

今年、次男が成人式を迎えた。この院長コラムは、子供達への生前遺言でもある。ダメ親父から次男へのエールとする。

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