公定価格 vs 物価高騰:医療・介護業界「サバイバル」の夜明け 〜2025年は医療・介護不況元年(後編)〜
いよいよ、この日が来てしまったか。そう感じている医療・介護関係者は少なくないだろう。2025年上半期の医療機関や訪問介護事業所の倒産件数が過去最高を記録したというニュースが世間を賑わせている。
当地でも、公益財団法人白浜医療福祉財団が運営する「白浜はまゆう病院」の経営状況の悪化が表面化するなど、この問題は決して他人事ではない。長年指摘されてきた人口減少と少子高齢化、そして止まらない物価高騰が、ついに我々の業界を直撃し、今年はまさに「医療・介護不況元年」となるだろう。
物価高は、クリニックや介護施設の経営を直接的に圧迫している。電気代やガス代、そして医療材料費や食材費の高騰は、収益を容赦なく削り取っていく。しかし、医療や介護サービスは公定価格であるため、自由に値上げすることはできない。この収支のバランスの崩壊こそが、経営の根幹を揺るがす深刻な問題だ。
さらに、この状況に追い打ちをかけるのが、深刻な人手不足である。働き手の減少は、サービスの質を維持することを困難にし、現場の負担を増大させている。給与を上げたくても、経営が苦しい中でそれも難しい。この「公定価格と物価高騰による収支悪化」と「人手不足と低賃金の負のスパイラル」が、多くの事業者を疲弊させているのだ。
この状況をさらに厳しいものにするであろう要因が、日本の社会保障制度にある。「国民の健康と命を守る」という大義名分のもと、野放図に拡大を続けてきた社会保障費は、もはや限界を迎えている。長らく自民党一強体制であった政治は混迷を極め、いつ何時社会保障費に「大鉈が振るわれる」か分からない。そうなれば、医療機関や介護事業所は、否応なく弱肉強食の生存競争に晒され、淘汰されていくことになるだろう。
しかし、悲観しているだけでは何も始まらない。この厳しい時代を乗り越えるためには、変化を受け入れ、新たな道を模索する勇気が必要だ。医療・介護は、僕たちの生活に不可欠なインフラである。この不況を乗り越え、未来につなぐために、今こそ知恵を絞り、持続可能な医療・介護モデルを構築していくことが求められている。
コロナ禍の前、僕は「経営センスがある」という傲慢な自信のもと、分院の設立や介護事業所の吸収合併、医療法人の多角化という夢のような絵を描いていた。しかし、現在の状況下では、事業拡大はリスクでしかない。
今、僕が最優先すべきことは、いかにしてこの荒波を乗り越えるか、である。すなわち、経営基盤を盤石にし、「負けない経営」を確立すること。それこそが、目下の最大の展望なのだ。このサバイバルゲームという厳しい篩から振り落とされず、生き残れた時に初めて、次の展望を考えるべきだと思っている。
僕たちは、地域医療・介護の灯を絶やすわけにはいかない。現状を直視し、生存戦略を徹底して実行する。この「不況元年」を乗り越え、必ずや次の時代につなげてみせる。