院長のコラム

還暦と、娘の妊娠と──父親を超える日

男の子にとって、父親は超えるべき壁の存在である。特に、同じ道を歩む医師という職業なら、なおさらのことだ。僕は、その偉大な背中を追いかけ、時には反面教師としながら、この道を歩んできた。
卒業大学では父に太刀打ちできなかったけれど、医学博士や専門医取得、大学講師や国立病院医長といった肩書き、そして職歴はそれなりのものを身につけてきた自負がある。しかし、もうすぐ還暦を迎えるという今になっても、「親を超えた」という実感は、いまだに僕の中に芽生えてはこない。

そもそも、生きた時代も時代背景も全く異なる人生を比較すること自体が、無意味なことなのかもしれない。父が成し遂げた医師会長に僕はなっていないし、高額納税者番付で一位になったかと問われれば、それも否だ。肩書きや職歴、納税額といった目に見える指標で優劣をつけることなど、本当は無意味なことなのだと頭ではわかっている。それでも、心のどこかで、常に父の影を追い求めている自分がいる。
そうであれば、もし親を超えるとすれば、それは父よりも長く生きることである、と僕は確信したのだ。父が生きた60歳まで、あとわずかだ。今の僕と同じ年齢の時、父はすでに病に伏し、自らの人生の終着点を見つめ始めていた。その姿は、僕の胸に焼き付いている

幸いなことに、僕はまだ健康だ。自宅の階段から落ちて左膝を強烈に打撲した一件を除けば、大きな病もなく、一日の終りの酒を楽しみに穏やかな日々を過ごしている。還暦という節目の年齢まで、悔いのないように全力で生き抜く。父が歩むことのできなかったその先の人生を生きることができれば、そこからまた新しい景色が見えるかもしれない。父が見ることができなかった情報化社会のさらなる未来を、この目で確かめられるかもしれない。
僕は、来るべきその日を意識しつつ、還暦までの人生を日々噛みしめながら生きている。それは、ある意味、僕にとって静かなる闘いなのだ。

そんな僕の日常に、今年の年始めから、驚天動地の出来事が立て続けに起こった。長女は今年、医師国家試験に合格した。それは家族にとってこの上ない喜びだった。
だが、今だからこそ打ち明けるが、国家試験前に、まさかの妊娠が発覚したのだ。交際している彼とは、国家試験合格後に入籍し結婚すると聞かされていた。しかし、それは国家試験合格が大前提で、年に一度しか行われない大切な試験に、身重の体で挑むという。家族一同、その無謀な決断に心底心配した。それでも、彼女はどうにか合格を勝ち取った。
本来なら結婚式や新婚旅行の話で盛り上がるところだが、彼女は「極力2年間で研修医生活を終えたいから」と、身ごもった体で研修医生活に突入した。出産日は9月10日。8月最終週から産休に入る予定で、僕たちは粛々とその日を待った。

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