院長のコラム

新宮講演会


九月二十九日土曜日、新宮市・東牟婁郡・紀南医師会合同の学術講演会を依頼された。その日は生憎台風二十四号が接近していて、翌日には近畿もしくは四国に上陸することが予報されていた(翌日、何と田辺市に上陸)。三時開始の講演会のため当地を十二時半過ぎに家を出ようとしたその時、テレビに「新宮・勝浦・串本 大雨洪水警報発令」のテロップが出た。田辺はまだ小雨なので半信半疑だったが、山間部を走る国道三百十一号を新宮に向かって車を走らせていると、どんどん雨脚が強くなっていくのが分かった。途中、熊野川に沿って百六十九号線に分岐するのだが、道沿いの滝からはゴーゴーと激しい音をたてて水が溢れんばかりに流れ落ち、所々道路も冠水していた。「やっぱり日頃の行いが悪いんやな。」つくづく思った。

医師会の講演会といえば通常、大学の教授もしくは同等クラスの医師に依頼されることが多い。なぜなら、日常診療で日々忙しく、学会や研究会になかなか参加できない開業医のため、最新の話題を提供することが趣旨だからである。講演の三ヶ月ほど前に製薬会社から突如として打診された。「えっ、何で?同じ開業医やし、話すようなネタもないで。そもそも俺の話なんて聞きたいと思う?」一度は、分不相応を理由に辞退させていただいた。しかし、後日改めて「新宮の先生がたが、是非ともとおっしゃっています。」という言葉にほだされてしまった。というのも、今回講演を依頼された地域の先生には日頃大変お世話になっている。面識のある先生もいれば、紙面でのやり取りだけの先生もいる。常々出向いてお礼をしなければと思っていたので、表敬訪問かねがね承諾することにした。

元来が怠け者である。余裕を持って二か月前には徐々に取り組もうと考えていた。案の定、渋々腰を上げ始めたのは一ヶ月前である。先ずはスタッフに、大まかにデータをピックアップしてもらう。日常診療の合間に行うので、それが提出されるまでに何日か要する。足りないデータを後日更に追加するため、データ集めだけに一週間以上かかってしまった。集まったデータを分析解析してスライド作りを行うのだが、日常診療の中、二十日間程度でほぼゼロから八十枚程度のスライドを作らなければならない。「絶対に間に合わない。」、この期に及んで受諾したことを後悔した。けれども、引き受けた以上後戻りはできない。毎週水曜日のギターのレッスンを講演会まで休止し、九月の連休はスライド作りに没頭した。講演会用のスライドが出来たのが、二日前である。

懸命の努力にも関わらず、当日は台風直撃前の大雨洪水警報である。道路が一部寸断されていて司会の先生が来られないかもしれない、という情報も入って来る中で新宮市医師会館に辿り着いた。しばらくして司会進行役の先生もどうにかこうにか到着したが、帰られないかもしれないとのことだった。さらに、講演会欠席の電話が医師会館に何本か入ったことも製薬会社から知らされた。最悪な状況に司会の先生との二人の座談会で終わることもやむ無しと考えたが、暴風雨の足元が相当悪い中、想像していた以上の先生にお集まりいただけた。講演会終了後、常日頃患者さんを紹介していただいている諸先生方と直接ご挨拶することができ、これまでの苦労が報われたように感じた。

正直なところ講演料なんてたかがしれている。かけた時間と労力を考えれば割に合わない。けれども、お世話になっている新宮地域の先生に表敬訪問することが出来た。一時は出来ないと諦めかけたスライド作りを達成することが出来た。何よりも、日常臨床にかまけて曖昧にしていたことがこれを機に明確にすることが出来た。今後の使用薬剤を変更せざる負えない結果が出たのだ。開業して以降、試験や締切りがなく漫然と生きていたように思う。たまには自身に高いハードルを設定することも大事だな、痛切に思えた今回の出来事である。それと、波風を立てるどころか嵐を呼び起こす自身の不徳のなさを改めなければ、とも感じた新宮での講演であった。

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