院長のコラム

俳優四人が見せた「命を削る芸」の凄み:映画『国宝』を観て(後編)

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本作『国宝』が単なるエンターテイメントで終わらず、観る者の魂を揺さぶるのは、その根幹を成す優れた原作と緻密な脚本にある。物語は、歌舞伎という「芸の継承」と「宿命」の世界を舞台に、血の繋がった親子の物語を描きつつ、芸の道で結ばれた血の繋がらない兄弟の愛憎劇を深く掘り下げている。
そこには、人生の光と影を映す青春群像劇と、悲劇的な恋愛物語が複雑に絡み合っている。また、この物語は歌舞伎という深遠な伝統芸能の世界に深く切り込んだ、ある種のドキュメンタリー的な側面も持っていると言えるだろう。成功と挫折、そして底辺からの再起という、人間の普遍的なテーマが織り込まれている。登場人物一人ひとりの人間模様と人生の機微があまりにも丁寧に描かれているからこそ、観客は深く共感し、感動し、自然と涙するものだ。

文筆家や音楽家、美術家と同様に、映画監督はその作家性、すなわち「作品のコンセプトとテーマをいかに伝えるか」を作品の隅々にまで要求される存在であり、僕にとって尊敬の対象である。
本作品には、李相日監督が求めた意図を完璧に汲んだであろう緻密な演出や微に入り細を穿つカメラワーク、加えて圧倒的な映像美が具現化されていた。まさに唯一無二の芸術作品だと断言できる。
この映像技術は、伝統的な化粧や衣装の細部、舞台の空気感を余すことなく捉えることで、歌舞伎という閉鎖的で厳粛な世界を、現代の観客にもその美と熱量が伝わる開かれた芸術として提示する力を持ち得た。

しかし、僕がこの映画で最も圧倒され、魂を揺さぶられたのは、歌舞伎役者を演じた四人の俳優、田中泯、渡辺謙、横浜流星、吉沢亮の「役者魂と凄み」だ。田中さんは舞踏家、渡辺さんはブロードウェイの舞台経験があるため、その身体能力と表現力はまだ理解できる部分がある。
だが、若手二人は、日本の伝統芸術である歌舞伎舞踊を、付け焼刃ではない、プロに迫るレベルで一から学んだに違いない。僕のような素人目線ながら、二人の所作の美しさ、その気迫のこもった一挙手一投足には目を見張った。
特に、横浜流星と吉沢亮という若手イケメン俳優に対し、僕は無意識に色眼鏡をかけていたことを認めざるを得ない。彼らの鬼気迫る気迫と技術は、その役に対する真摯さとプロ意識の証左であり、僕の偏見を完全に打ち砕いた。彼らは、芸を追求する者の「命を削るような努力」を見せつけたのだ。ある意味、彼ら二人の熱演に圧倒され放しの三時間だったと言っても過言ではない。

映画『国宝』は、魅力的な登場人物とその人間模様、思わず引き込まれる物語、そして圧巻の映像美。すべてが完璧に備わった日本映画の金字塔だ。
この作品を観られたことは、命と向き合う僕の人生観をさらに豊かにする、僕の人生において一つの貴重な経験となった。

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