黒衣の導き、アルマーニの残像とヨウジの「余白」が織りなす運命:山本耀司とジョルジオ・アルマーニ(最終)
大阪城ホールでの槇原敬之のコンサート翌日、10月26日は、青山本店での「ヨウジヤマモト・ファム 2026春夏物受注会」の日だった。僕は9時過ぎに大阪を発った。大阪の朝の雨模様は落ち着いていたが、西から東に移動する我々と同じく、天気も移ろって行く。「東京の天気はどうだろうか?」、新幹線の車窓から見える景色に一喜一憂しながら東京を目指した。
きっと日頃の行いがいいのだろう、東京駅に到着した時には雲間から太陽が覗いていた。時間が押していたこともあり、東京駅から南青山までタクシーで向かった。季節の変わり目の空気の移ろいと、目的地への焦燥感が、今回の特別な受注会への高揚感をさらに煽った。
行く度に思うことだが、受注会参加者は回を追うごとに多くなっている。パリコレで発表されたばかりの作品のすべてを、デザイナーの意図が込められた状態で間近に手にとって見る機会はまたとない。写真で見るのと、実物を見て触るのとでは雲泥の差だ。
今回の一番の目的は、もちろん「アルマーニとの最初で最後のコラボドレスは本当に商品化されるのだろうか?」という、下衆ながら抱いた僕の問いの答えを確認することだった。
それはそうだ、ガブリエル・シャネル、イヴ・サンローラン、ユベール・ド・ジバンシィなどと並んで歴史に名を刻むだろう二人のデザイナーの協業ドレスが量産化されるためには、著作権や意匠権などの知的財産権やロイヤリティなど、超えるべき幾多の難題があったに違いない。僕の懐疑的な推測は、法的な側面からも裏付けられていたのだ。
12時半スタートのセッションで、僕は先ず2体のルックを確認した。3階から階段を上った会場のすぐ左手に、僕が疑問視していた2体のドレスが静かにハンガーに掛けられ展示されていた。「まさか!」半信半疑で価格表示を確認したら、確かに値付けされている。しかも、想像していたよりも値頃だ。最初で最後の巨匠達のコラボが実現し、僕の手が届く「商品」として目の前にあることに、僕は感無量だった。
女性の受注会だから僕は要無しと思いきや、担当してくれた店長から思いがけない言葉が。「こちらは、モデル用サイズも作る予定なので、長嶋さんも試してみませんか?」ときた。女性モデルなら身長175cmはあるだろうから、丁度僕くらいだ。しかし、横幅が全く異なるから「どうだろうか?」と思いながら羽織ってみた。驚くべきことに、全く違和感なく着られるではないか。それはまるで、長年着てきた「ヨウジヤマモト」の服の持つ「余白」が、この特別な女性ドレスにも内在していることを示していた。
2026「ヨウジヤマモト・ファム」春夏物受注会は、結局、夫婦揃って、「ヨウジヤマモト」のアルマーニ氏追悼モデルを購入することになった。かつてアルマーニを纏い、そしてヨウジの哲学にたどり着いた両巨匠を体感している僕からすれば、これは偶然の中での必然となった。予期せぬことが、振り返れば運命だったと知る。初冬の現在、僕はもう来春、この特別なドレスに袖を通すことを夢見ている。人生は意図せぬことばかりで、愛おしく、いとおかしなものである。この年になって、僕はまだまだ人生を謳歌しているのだ。(この章おわり)






