長嶋、降圧剤を飲むってよ(中編)
体型変化にショックを受けた頃から、僕はしばしば「頭重感」を覚えるようになった。
頭の中がぼんやりしてモヤモヤするような、何とも言えない不快な感覚である。当初は、「また副鼻腔炎を起こしたのだろうか」とも考えたが、鼻炎症状は全く伴わない。そこで、一応医者らしく「ひょっとして血圧が高いのかも?」と思い至り、血圧を測定してみて、さらに驚愕することになった。
僕は元来、徐脈傾向(心拍数が60以下)で、収縮期血圧(上の血圧)も100mmHg前後という、生活習慣病とは無縁の低血圧気味の体質だと認識していた。しかし、測定された血圧は、なんと上の血圧が150mmHg前後、下の血圧が100~110mmHg台という、明らかに高血圧の値を示していた。それは、見慣れたはずの血圧計のデジタル数字が、僕を嘲笑う赤い警告灯のように見えた瞬間だった
ただし、日内変動があり、就寝前のリラックスした状態では、上が120mmHg台、下が80mmHg台と正常値に戻ることも確認できた(晩酌による要因も考慮する必要がある)。それでも、日中の高値は看過できるものではない。「さて、どう対応すべきか?」と、僕は医師として、冷静に、そして真剣に、僕という偏屈な一人の患者に向き合うこととなった。
高血圧の家族歴はなく、元来が低血圧気味だったため、僕には定期的に血圧を測定する習慣がなかった。したがって、いつから血圧が高くなったのかが判然としない。
通常であれば、患者には「適度な運動と食事を心がけ、まずは塩分を控えめに3kgの減量を目指しましょう」と説明するのが妥当である。しかし、当時の僕は、恰幅が良くなったとはいえBody Mass Index(体格指数)は正常上限。運動は適度以上に行っている。妻の作る家庭料理の味付けも決して濃くない。
にもかかわらず、高血圧に起因する可能性のある頭重感が伴っている。これは、生活習慣の改善だけでは追いつかない段階であると判断せざるを得なかった。
総合的に勘案した結果、僕は降圧剤を服用することを決意した。僕が自身に投与することにした第一選択薬は、オルメサルタンというアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)だ。血圧をマイルドに下げ、血管だけでなく血圧に関与する心臓や腎臓への負担を軽減する臓器保護作用にも優れる汎用性の高い薬剤である。かつて何百人もの患者に処方箋を書いてきたその薬が、まさか自分の喉を通り、自分の血管を広げることになるとは、夢にも思わなかった
初期投与量10mgから服用を開始した。患者への使用経験から、すぐに正常化するものと思っていた。しかし、起床時から日中の血圧はほとんど変化しない。性格同様、血圧まで頑ななようだ。
かたや、就寝前には、上の血圧は100mmHg以下に下がり立ち眩む頻度が多くなった。日中の高値をとるか、就寝前のリラックス時の値をとるか。「増量すべきか、維持すべきか、それが問題だ」。ウィリアム・シェイクスピアの戯曲『ハムレット』の主人公のように苦悩した。この判断が、僕の次の課題となったのである。(最終編につづく)






