院長のコラム

働く男

突き抜けた男

突き抜けた男が好きな服

季節が秋になっても、お盆の頃の思い出話をコラムにだらだらと書き続けた。今夏の旅行は二度と経験できない貴重な体験だった。その記憶を記録に留めて置きたかった。しかし、数週間前の記憶をたどって数回に分けて書くのは相当無理があった。いつもよりさらに勢いのない目的・意思のない散漫な日記に成り下がってしまった。知人からは「今回のバリ旅行は大変でしたね。」と慰められるだけだった。伝えたかったことは、旅と同様困難があればあるほど障害を乗り越えれば乗り越えるほど、人生は豊かなものになるということだったが、ほとんど伝えきれないまま中途半端に終わってしまった。長々と思い出話を綴ったのには訳がある。分不相応の優雅な旅行をした罰が当たったのだ。お盆明けからとにかく忙しい日々が続いた。スタッフ休憩室でホット一息、コーヒータイムさえも取れなくなってしまった。終日、内視鏡室と診察室の往復に終始した。帰宅したらバタンキュー、文章を書く気力まで失せてしまった。
たくさんの検査件数をさせていただいたことも一因だが、今年六月からの電子カルテのリニューアルも要因である。どの分野の仕事でも残務がある。我々の仕事なら、診察した患者さんのカルテの整理に病名入れ、種々の書類作成に診断書作成がそれである。従来なら五分ほどでその日のカルテをバックアップしてから、ゆっくり自分のペースで残った仕事をした。しかし、電子カルテが変わってからは、日々のカルテの更新にメンテナンスとバックアップに一時間半を要するようになった。就業時間を終えて更に一時間半も待てなくなった。今まで残務としていた仕事を時間内業務に変更せざるを得なくなったのだ。

開業する前、理念はあったが具体的な数値目標はなかった。開業当時、周囲から内視鏡専門医と認められていた診療所では、月に百件前後の検査がなされていた。そのくらいの検査を出来れば程度には考えていたが、お陰様で初年度に達成できた。その後も徐々にだが検査件数は増加傾向にあった。開業三年目の頃、和歌山市で先に開業した医師から「最近とても忙しく体がついてこなくなったので、月に二百件に制限しています。」と聞かされた。都市部の新進気鋭の医師はさすがに違うな、とため息を漏らしたのを印象的に覚えている。
けれども、いつの日かそれさえもクリアし、月によって二百五十件を超えるようになった。勢いづいていた矢先、平成二十三年三月に東日本大震災が起こり、それ以降しばらく検査件数が伸び悩んだ。自分の器量をそろそろ観念していたが、昨年から形勢が変わり再び対前年度を上回るようになった。とうとう今年九月には、大台と考えていた三百件を超えてしまった。

先日、若き経営者と経営のことで話す機会が合った。自分の持って生まれた運に器量や努力、自分以外のスタッフの苦労・尽力を遙かに越えた想像もつかなかった検査件数をさせてもらったことを引き合いに、「突き抜けた」感覚を覚えたこと、地道に無心に努力をすればいつか自分が感じたような心境に至るので刻苦勉励するよう諭した。
新たな段階に突き進んだことで自分の限界も見えてきたことは確かである。これに慢心おごることなく、日々自分の限界に問いかけながら一歩ずつ歩んでいこうと心新たにしている。

働く男の普段着。

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