院長のコラム

栗城史多という人(1)

衝撃的なドキュメンタリーを見た。見終わった後、何とも言えない虚無感が残った。喉に刺さった魚骨のように、こんな後味の悪い番組は珍しい。なぜ彼は生き急いだのか、彼を追い詰めたのは何なのだろう今も自問自答している。

我が家の日曜夜八時は、今年から「世界の果てまでイッテQ!」からNHK大河ドラマ「いだてん」に変わった。のっけから視聴率が低いとネットニュースは叫ぶが、大河初視聴者としてはクドカンワールドを十分に堪能している。これからますます楽しみである。第二話が終わって、風呂に入るべくそのままテレビをつけていたら次はNHKスペシャルだった。何気なく画像を見ていたら登山家のドキュメンタリーのようだ。登山には、全くといっていいほど興味ない。山で遭難するニュース(特に冬)を聞くにつけ、「様々な方に迷惑をかけて、場合によっては自分の命を落とすかもしれないそんな危険を犯してまでなぜ山に登るの。」、愛好家の方に申し訳ないが「そこに山があるから」と言われても、「禅問答かよ!」常々疑問を感じていた。自分のような欲にまみれた臆病者にとって、登山家は冒険家であり勇者であり、ある意味超越者である。そんな眩しい人の密着取材を見ることは、自分の矮小さを自覚するだけである。テレビを消そうとしていたら、彼の訃報を知らせるニュースから番組が始まった。「えっ、この人亡くなったんだ。そう言えばそんなニュース流れたな。」ふと思い出した。登山家の名前は栗城史多(くりきふみかず)、どうも自分が思っていたようなヒーローをもてはやす番組内容ではないようである。

夢も希望もなかった若者が登山に生きがいを見つけ、経験も知識も乏しいまま周囲の大反対を押し切って北米大陸の最高峰マッキンリーに挑み登頂に成功した。以後、次々と大陸の最高峰に挑んだ。彼が従来の登山家と異なったのは、インターネットやSNSを駆使して「冒険の共有」と称して登山の様子を配信したことである。山に興味のない若者からは熱烈な支持を集める一方、専門家からは無謀、売名行為、下山家等非難され、まさに賛否両論のある人物だったようである。四度目のエベレスト登頂では、凍傷により両手指九本を失っている。その後もことごとくエベレスト登頂に失敗したにも関わらず、最後の登頂になった八度目は、最も困難と言われるルートを敢えて選択している。何に苛ついているのか分からない。誰をも寄せ付けない雰囲気を醸し出す彼が、すぐれない体調を押して登頂に挑む姿が結末を予見していた。番組を見終わって、「とんでもない番組を見てしまった。」と感じた。これはフィクションではない。脚色されているとは言え、本人自らがが演じているのだ。栗城君は、三十五歳という若さでこの世を去った。救われない現実に戸惑ってしまった。安穏と生きながらえている自分の胸に突き刺さった。

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