院長のコラム

ローマの熱狂、アマルフィの静寂:フェラーリの新型車に思う(1)

まさか、よもや、あろうことか。僕はいま、フェラーリ・ローマのステアリングを握っている。 誤解しないでほしいが、金が余っているわけでも、世間に自慢したいわけでも、ましてや選民意識に浸りたいわけでもない。そんな俗物的な感情は毛頭ないのだ。
あるのはただ、脳天を突き抜けるような美的衝動と、「この造形美を手元に置きたい」という本能のみ。そして、それを現実のものとするための最強の魔法、その名を「残価設定型ローン」という。
かつてRCサクセションは『雨上がりの夜空に』で高らかに歌った。「いつものようにキメて ぶっ飛ばそうぜ」と。僕もまた、その歌詞に背中を蹴飛ばされるようにして、「乗れるものなら乗ってみたい」という禁断の果実に手を伸ばしてしまったのである。

僕はローマを初めて見たとき、直感的に「現代版、トヨタ2000GTだ!」と奮い立った。エアロダイナミクスを考慮したこれ見よがしの開口部も、大げさなキャラクターラインも、この車にはどこにも見当たらない。艷やかでエモーショナルな造形美がそこにはあった。まるで人体の曲線美を表現したかのような生命感みなぎる豊潤なデザイン――これこそ、僕が求めていた「甘い生活(Dolce Vita)」の象徴だ。
納車日はいみじくも2021年12月25日のクリスマスとなった。休診日の晴れた白い朝、クリニックの駐車場に積載車から降ろされる真っ白なローマは、まさに神々しかった。静寂を破って轟く乾いたエンジン音に度肝を抜かれた。「これがフェラーリか!」、訳も分からず神妙な気持ちになったものだ。
その時の、恥も外聞も捨てた詳細な経緯については、2022年5月のコラムでクドクドと書いた通りである。あれから4年経過したけれども、ローマを愛する気持ちは今も変わらない。

さて、そのローマが本国イタリアで発表されてから(2019年11月)、早6年が経過した。かねてより噂されていた「ローマの後継機」となる新型クーペが、去る7月にヴェールを脱いだ。 ローマの完成されたプロポーションを知る身としては、さらなる洗練の極みに達しているに違いないと、期待値は成層圏まで上がっていた。
想像に反して、その名は、「ローマM」のようなストレートな進化系ではなく、「アマルフィ(Ferrari Amalfi)」だという。写真を見た瞬間、僕の口から漏れたのは感嘆ではなく、間の抜けた「ええっ?」だった。正直に告白しよう。僕の視覚中枢は、そのビジュアルに対して微塵も欲情しなかった。「ワオ!」という歓喜の叫びが、喉の奥から湧き上がってこないのだ。

確かにデザイン的には破綻がなく、グッドデザイン賞の候補にはなるかもしれない。しかし、心が、魂がときめかない。個人的な印象を恐れずに言えば、「これは新型プリウスか? それとも新型プレリュードか?」という既視感が拭えない。かつて僕を熱狂させた、あのイタリアの狂気的な美的感覚は、一体どこへ消えてしまったのだろうか。(2・アマルフィと雑賀崎につづく)

 

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