マッキー35周年ライブ考:僕が目撃した『再生』と『伝承』の哲学
今回のライブで強く心に残ったもう一つの楽曲、それはもちろん『世界に一つだけの花』だ。周知の通り、この曲はあのアイドルグループSMAPに提供された楽曲である。今やSMAPの曲というよりも、将来の文部省唱歌となりうるくらいの国民的楽曲にまで昇華したと言っていい。
しかし、そのSMAPの再結成が不可能となったこの状況下で、この時代を彩った稀代の名曲を「引き継ぎ、伝えていく人」は、作詞・作曲者本人、たった一人しかいなくなってしまったのだ。
そして、何とこの曲をアンコール2曲目に演奏したのである。イントロが流れた瞬間、「ええ、まさか!」「キターーー!」と、会場は騒然とした。それはもちろん、温もりのある、優しさに満ちた雰囲気の中で、大阪城ホールに響き渡る大合唱となったのは言うまでもない。マッキーは、この楽曲を自身のルーツ、そして未来へのメッセージとして、再び引き継いでいく決意を、この場所で我々に表明したのだと僕は感じた。
アンコール3曲目の『君は僕の宝物』の演奏を終え、メンバー一同がカーテンコールに応じる。足早に帰路につく観客がちらほらいる中、メンバー全員が舞台袖にはけた後、最後にマッキーの挨拶が来るものと思いきや、彼は皆がいなくなったステージに一人残った。
そして、「16歳(17歳説もある)の時に作った曲を聞いて下さい。この曲ができた時、『これからこんな曲を作っていくだろうな』と確信した曲です」と紹介し、ピアノの弾き語りで披露されたのが、印象に残った3曲目『ANSWER』だった。厳密には初期の別作品も存在するかもしれないけれど、35周年アニバーサリツアーをこの曲で締めくくったからには、彼は『ANSWER』を自身の音楽の原点だと位置づけているに違いない。
一言で言うなら、「付き合い始めたばかりの恋人同士の何気ない風景を切り取ったバラード曲」だ。その歌詞の世界観は、美しいメロディも相まって、まるでショートムービーを見ているかのように想像力を膨らませてくれる。「この曲を高校生で創るなんて、マッキーはやっぱり天才だ!」、僕は同年代で『I LOVE YOU』を創った尾崎豊に思いを馳せた。こうして約3時間に及んだライブは、静かに、そして感動的な大団円を迎えたのである。
僕は常々リアリストだと自認している。「優しさ」「温もり」「共感」という言葉は、ロマンティストが「甘やかし」もしくは「現実逃避」を繕う偽善的な表現だと考える、ひねくれた人間だ。真の愛情とは、「生きることの厳しさ」「他人の冷徹さ」「誰も助けてくれない孤独」を、時に現実的に伝えることだと思っている。
しかし、マッキーのライブに参加して必ず思うことは、真実を直球ストレートに伝えることも重要だけれども、その気持ちを押し殺して、時にはただ静かに「寄り添う」ことも必要なのだ、ということだ。彼の音楽は、僕の辞書にはない「慈悲深さ」に思いを巡らせるきっかけを与えてくれる。
誰かのためになることを、謙虚に願う心。彼のライブは、日々の暮らしの中でつい忘れそうになる「感謝」や「思いやり」といった人間の根源的な感情を呼び覚ます。その意味で、ある種の宗教的儀式なのかもしれない。
この感覚を忘れないためにも、彼のライブには次回も必ず参加しようと心に誓った。そして、これからも臨床医として、リアリストの冷静さと彼が教えてくれた「寄り添う慈悲深さ」の両輪を持って、患者と向き合っていきたいと思っている。(この章おわり)






