院長のコラム

巨星の死と慟哭のドレス――ジョルジオ・アルマーニと山本耀司の深淵

昨年12月に院長コラムに掲載した「山本耀司とジョルジオアルマーニ」をnote用にまとめました。

第1章―出会いと移行:二人の巨匠を結ぶ見えない糸
「ヨウジヤマモト」—このブランドは、30数年来、僕の精神を形成する制服であり、知的な戦闘服であると言っていい。その深遠な黒と鋭利なカッティングは、僕という個を表現する上で不可欠な要素となった。

しかし、この揺るぎないスタイルにたどり着く前、僕が纏っていたのは、「ジョルジオ・アルマーニ」のセカンドライン「エンポリオ・アルマーニ」だった。
まだファッションの深い哲学に触れる前、医学部を卒業し、多忙な臨床の現場に足を踏み入れる前後の、「服を着ること」に確信を持てないでいた時期の話である。
話せば長くなるが、「エンポリオ・アルマーニ」から「ヨウジヤマモト」への移行は、単なる趣味や流行の変化ではない。それは、僕自身の内的な探求の軌跡であり、知的な審美眼の進化であった。実は、その転換点自体を「エンポリオ・アルマーニ」が示唆していたという、劇的な巡り合わせがあった。この体験とは……。

ある時、「エンポリオ・アルマーニ」のジャケットを購入した際、ノベルティとして一冊の豪華なフォトブックを手に入れた。何気なく眺めていた、すべて英語で書かれたその洗練された紙面の中に、突如として「Yohji Yamamoto」の文字を発見した。それは、ジョルジオ・アルマーニ氏自身が、山本耀司氏に対して惜しみない敬意と賛辞を贈る、短いながらも重みのある文章であった。

この事実は、当時の僕にとって、自分の選んでいたスタイルのその先に、さらなる深淵なモードの世界が存在することを教える、非常に刺激的な情報だった。
時を同じくして、映画監督ヴィム・ヴェンダースのドキュメンタリー映画『都市とモードのビデオノート』が札幌で上映されていた。この作品は、山本耀司氏がパリ・コレクションの準備を進める過程を追ったもので、そこで描かれる、既存の価値観に立ち向かう徹底した「反骨の美学」に強く惹かれた。既成概念を打ち破り、服を通して哲学を語るその姿は、僕の好奇心を激しく揺さぶった。

一方はイタリア・モード界の帝王として、伝統とエレガンスを再構築した巨匠。一方は世界のモードに衝撃を与え続けたアヴァンギャルドの旗手。その両巨匠が、国の壁やスタイルの違いを超えて互いにリスペクトし合う事実。
「ヨウジヤマモト」というブランドが単なる流行を超えた、普遍的で確固たる哲学を宿している証左だと、僕は確信した。この二人の偉大なデザイナーを結ぶ見えない糸こそ、僕が追うべき「服の真理」だと感じた。

社会人として自分の給与で服を買うようになり、「衣服が僕自身をどう表現し、どう機能させるか」という意味を現実の生活の中で模索し続けた。時に生死の境界線に立ち、白衣という公的な記号を纏う日常において、その対極にある「個性」という実存を繋ぎ止める何かが、僕にはどうしても必要だったのだ。

その探求心の帰結として、僕は黒衣という「ヨウジヤマモト」にたどり着いた。札幌の直営店で初めてその袖を通して以来、30数年。黒を基調とし、既製服でありながら着る人に「余白」と「自由」を与えるそのスタイルは、単なるファッションではない。多忙を極める臨床現場で、僕が僕自身であること、その「個」を維持するための「鎧」であり、今や僕の人生そのものを象徴する「制服」となった。

第2章以降は、noteという独房で。無料で読めます。https://note.com/hazremon/n/nb854e463d885?magazine_key=m9ed2d799b42f

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