院長のコラム

家是(かぜ)の代償:年末の山陰弾丸カニツアー(1)

2026.01.26

家業の繁忙と母の早逝。そのせいで、僕の記憶の断片に「一家団欒の家族旅行」という鮮やかなセピア色の風景はほとんど存在しない。その空白を埋めるため、あるいは僕自身の寂しい原体験を子供たちに繰り返させないため、我が家には一つの家訓がある。「長期休暇には必ず家族旅行へ行くこと」。この独善的とも言える家是(かぜ)が、それぞれに家族を築いてゆく彼らの心にどう刻まれるかは、神のみぞ知るところである。
子供たちが中等教育を終えるまでは、「家族だョ!全員集合」が至極当然だった。しかし、彼らが高等教育に進み、社会人として社会の荒波に漕ぎ出し始めると、一人抜け二人抜け、家族全員が揃うことは困難を極めるようになった。

事の起こりは、昨年晩秋の週末だ。出産したばかりの長女と孫が里帰りしていた折、仕事を終えた長女の夫が大阪から我が家へやってくるという。それならばと、祖父母も呼び寄せて食事会を催すことにした。
今となっては、どのタイミングでそんな話になったのか判然としない。 「美雪、旨い蟹を食べに連れて行ってやるわ」 そう豪語する祖父に対し、「おじいちゃん、昔から同じことばかり。もう先が長くないんだから、いつ行くのよ!早く予約しないと行けなくなるから、今すぐ取るよ!」 と食ってかかる孫。そんなやり取りがあったような気もする。
ほろ酔い加減の僕は、それを聞いていたのか聞き流していたのか。どうやら、その場の勢いで即座に同意してしまったらしい。話はトントン拍子に進み、数日後には12月27日から山陰へ向かう「カニ旅行」がバカ首相をよそに閣議決定されていた。

参加メンバーは、その場にいた家族と新旧の夫婦、計7名と乳飲み子1名。とりあえず旅館の二部屋を確保した。その後、上京している長男と、研修医2年目の次男に打診したところ、なんと二人とも「無問題(モウマンタイ)」との返事。かくして、久しぶりの全員集合どころか、ニューフェイスの長女の夫と赤ん坊を加えた、総勢10名という民族大移動のような旅が出来上がった。
ふと現実に戻り、算盤を弾く。聞けば旅館代だけで一人4万円弱。それに人数分を掛ければ――。 「……これ、誰が出すんだ?」 妻に尋ねると、「そりゃパパでしょ」と慈愛に満ちた笑顔で即答。僕は口をつぐんだ。 「ジジイとワガママ娘の言い合いに、なぜ僕ほどの好漢(こうかん)がこれほどの血汗(ちかん)を投じねばいかん!」 心の中でそう毒づいたが、後の祭りである。家長の矜持をもって、僕はその怒りを飲み込むことにした。

12月中旬、ようやく重い腰を上げて支度を始めた。この段階になって、僕は初めて目的地が鳥取県の三朝温泉であることを知った。酒と肴を持ち込んでのんびり列車に揺られ、名湯に浸かって蟹を食らう……そんな悠々自適な旅を想像していたのだが、行程を調べて愕然とした。
特急「くろしお」で大阪へ。そこから「スーパーはくと」に乗り換えて倉吉へ。三朝温泉までの移動時間は、計6時間45分。紀伊田辺からなら北の仙台まで行けてしまう時間だ。ならばと車での移動を調べると、なんと2時間も短縮できるではないか。和歌山市で次男を、大阪で長女一家を拾うことを考えれば、車が最適解なのは明白だった。
しかし、ここでまた問題が浮上する。年末の山陰は雪の懸念がある。我が家が誇る「ランドクルーザー300」と「レクサスGX」といえど、ノーマルタイヤで雪の山陰に突っ込むのは特攻に等しい。 熟慮の末、スタッドレス仕様のアルファードを2台レンタルすることにした。1台あたり5万円。おまけに、運転手は時給1万円(相当)の僕である。(つづく)

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